輻射パネルの性能評価

輻射パネルの性能を正しく比較検討するために

宮本 知典

九州大学工学部卒業。輻射式冷暖房「F-CON」の製品開発や国内外の熱負荷計算業務に従事。

輻射パネルを比較検討する際は、性能表示が実測に基づいた測定値を参考にすることが重要です。

しかし、エアコンと異なり、輻射パネルはJIS規格が規定されていないのが現状です。そのため、各メーカーが推定値や仮定値など独自の規定で性能表示しており、実環境で測定すると大きくずれるケースが多く見受けられます。

このような現状が、「輻射式冷暖房は本当に効くのか?」といった疑問や不満に繋がっているようです。

本記事では、輻射式冷暖房を正しく有効活用できるように、輻射パネルの評価基準について解説いたします。

輻射パネルの性能評価や比較検討が難しい理由

まずは導入を検討している輻射パネルのカタログや仕様書の性能表示が、測定値なのか仮定値なのかを確認しましょう。

前述の通り、輻射パネルはJIS規格が規定されていないため、各メーカーが推定値や仮定値など独自の規定で性能表示しており、実環境で測定すると大きくずれるケースが多く見受けられます。

推定値や仮定値を鵜呑みにして輻射パネルを選定すると、正しく熱負荷計算をして最適な配置を設計をしても輻射効果を最大化できず、エアコンを追加導入するといった本末転倒な事態につながる可能性があります。

他にも、下記の理由により冷暖房能力不足・過剰につながってしまう事例もありますので注意が必要です。

  1. 輻射パネルのサイズに比例して冷暖房能力表示されているが、実際は比例しないことが多い(弊社調べ)
  2. エアコンと違い、輻射パネルの冷暖房の最大能力という概念はないが、最大能力の表記がなされ、設備設計担当者がその高い数値で設計を行う
  3. 輻射パネルの内部を流れる冷温水の推奨温度は各メーカーによって異なります。しかし、推奨温度での冷暖房能力表示がなされていない
  4. 輻射パネルの性能は、流量や流水する温度に左右されますが、測定する室内環境条件によっても性能は大きく左右されます。その測定条件が未記載(室内条件:室温、湿度。流量、冷温水の温度)であったり、実際に設計される室温や湿度の条件での冷暖房能力が表示されていない
  5. 輻射パネルの能力は、室内環境が統一されていれば、「流量」と「輻射パネルの出入口の温度差」で能力が決まりますが仕様書通りの値がでない

次章では、測定値における評価基準について解説いたします。

輻射パネル性能の評価項目

輻射パネルの性能を正しく評価するためには、下記の測定値を確認することを推奨します。

  1. 冷暖房能力
  2. 圧力損失

輻射パネルの冷暖房能力

冷暖房能力は、室内環境が一定の場合※、下記の方程式で決まります。

「流れる冷温水の量(流量)」×「温度差(輻射パネルの出入口)」

つまり、輻射パネル内を流れる冷温水の量が多く、輻射パネルに入る冷温水と出る冷温水との温度差が大きいほど、冷暖房能力が高いといえます。但し、この2つの数値は、トレードオフの関係にあります。

※ FUTAEDA株式会社では、冷暖房能力を測定する際、実際に利用する「室内環境の条件」「パネルの条件」「室外機の条件」すべてをそろえて測定しています。

輻射パネルの圧力損失

圧力損失とは、「輻射式冷暖房の入り口と出口の圧力計の差」で、冷温水が配管を流れるときに失うエネルギーを表します。

圧力損失が小さいほど冷暖房能力を高めやすくなり、この関係性は車に例えるとわかりやすいです。

輻射パネル
流れる冷温水が多いほど、圧力損失が高いスピードが上がるほど、風の抵抗を受ける
冷温水を流すポンプの能力が高いエンジンの能力が高い

FCU(ファンコイルユニット式)などの業務用冷暖房の室外機や配管を設計する際は、一般的に下記の流れになります。

  1. 室内に供給が必要な熱の量が熱負荷計算にて算出
  2. 必要な熱量を満たす冷暖房能力のある室内機の選定
  3. 室内機の容量にあった室外機の選定
  4. 輻射パネルの圧力損失を確認して、配管に必要な流量の決定
  5. 配管経路などの配管計画を行う
  6. 配管の長さや太さなどの配管計画に基づいて、必要なポンプの能力の選定
    ※業務用の室外機は、冷温水を流す循環ポンプは個別

しかし、輻射式冷暖房で使う家庭用の冷温水式ヒートポンプは、冷温水を流れる循環ポンプが室外機に内蔵・固定されています。

そのため、循環ポンプの揚程という能力から逆算して、配管の太さや長さの設計が決まり、輻射パネルの流量が決まり、性能が決まるため、圧力損失が低いことが、輻射パネル性能の向上や室外機から輻射パネルの距離を長くすることができることに繋がります。

F-CONの性能評価例

FUTAEDA株式会社では自社で環境試験室を用意し、より正確でかつ実環境に合わせて性能評価実験を行っております。

輻射パネルの性能評価実験には、

  • 輻射パネルの大きさや高さ以上の実験室
  • 安定的に輻射パネルに供給する冷温水の温度をキープする特殊な設備

が必ず必要です。

また、設計に必要な冷温水の温度や流量や室温を変化させて、室内環境が安定した状況で、冷暖房能力の値を取得しないといけないため、1つの輻射パネルサイズに対して長期間時間を要します。

そのため、既存の外部試験室では諸条件や期限によって実験が制限されてしまい、十分な性能評価を行えないこともありました。

このような経験から、より高性能な輻射パネルや輻射パネルを導入される設備担当者様がトラブルをおこさないように、自社の実験環境を整備・強化しております。

環境試験室

FUTAEDA株式会社の環境試験室では、輻射式パネル等の大型なものでも実寸サイズによる実測が可能です。冷温水の流量や温度・湿度を諸条件を変更し、導入する環境を再現した上で適したパネルの開発を行っています。

FUTAEDA株式会社の環境試験室
FUTAEDA株式会社の環境試験室

独自の冷凍サイクル室外機システム

冷凍サイクル室外機システムは自社開発した唯一のシステムです。冷温水を約±0.1℃差の範囲で、水温を長時間一定に維持することが可能です。

FUTAEDA株式会社独自の冷凍サイクル室外機システム
FUTAEDA株式会社独自の冷凍サイクル室外機システム

試作機の性能比較

暖房時の実験において、温度20℃、湿度40%で一定となるような制御を行い、各パネルに水温50℃・流量1.5L/minの温水を弊社開発の特殊チラーを用い定常状態にて流して、同一条件にて試験を実施しています。

社内で熱流体解析(CFD)でシミュレーションだけではなく、実際に試作・改善・検証を繰り返すことで、輻射式冷暖房として最適な素材・形状を見極め、輻射パネルの性能向上に努めています。

輻射パネルの輻射量比較実験/FUTAEDA株式会社

まとめ

輻射パネルの性能を判断するためには、まず実測値ベースで比較検討することが重要です。

続いて、パネルの冷暖房能力や圧力損失についても確認することが重要ですが、専門知識を要したり、メーカーによっては推定値であったり非公表だったりします。

  • 輻射式冷暖房を導入したいが、どのメーカーにすべきか判断できない
  • 熱負荷計算など、事前の温熱環境設計に関する知見が無い

上記のような課題やお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。FUTAEDA株式会社では輻射式冷暖房を導入検討されている企業様へ、無料で温熱環境コンサルティングを承っております。

自社研究施設を持ち、輻射パネルの性能や開発の数値的根拠を重視して研究開発に臨む当社ならではの知見で、より良い空間づくりをサポートいたします。