輻射式冷暖房の電気代

輻射式冷暖房は省エネ?電気代はどれくらい?

宮本 知典

九州大学工学部卒業。輻射式冷暖房「F-CON」の製品開発や国内外の熱負荷計算業務に従事。

一般的なご自宅の光熱費と比較して10~20%省エネの方が多いと言えます。

ネット上の情報をまとめると、輻射式冷暖房の電気代は20~50%省エネと表現されることが多いですが、細かい測定条件まで確認すると、対象となる熱源や比較条件が異なることがわかります。

以下に、冷暖房器具ごとの比較や実例・根拠をもとに情報を精査してみました。

冷暖房器具ごとの電気代の比較

輻射式冷暖房の電気代は、他の冷暖房器具と比較して、

  1. エアコン(ヒートポンプ式)と比較して、10~30%省エネ
  2. 床暖房(電気式パネルヒーター)と比較して、50%~70%省エネ
  3. 重油等を用いた熱源やチラーと比較して、50%前後省エネ

という表現がなされています。それぞれ細かく説明していきましょう。

エアコン(ヒートポンプ式)と比較して、10~30%省エネ

エアコンも輻射式冷暖房も、ヒートポンプという仕組みで電気を利用して冷暖房を行っています。

ヒートポンプは中身の心臓部である圧縮機の電気使用料が90%を占めております。

エアコンも輻射式冷暖房の室外機も冷媒ガスか冷温水の出力かの違いはあるものの圧縮機は、ほぼ同一のものです。

そのため、基本的にはエアコンも輻射式冷暖房も、駆動するための電力だけでは、電気代に差がつきにくいと感じています。

もちろん、圧縮機の古いタイプの古いエアコンと比較すると、電気代に差が出ることは明らかです。

では、同じヒートポンプ式の室外機なのに、なぜ10~30%省エネといえるのか?それは、輻射パネルの輻射熱効果により、体感温度が1~2℃を変えることができるためです。

輻射式冷暖房は、冷房時はリモコンの設定室温を上げても、暖房時は設定室温を下げても同じ冷温感を感じられます。

その結果、エアコンよりも1~2℃緩和した室温設定にできるため、室外機の負担が減り、結果として、省エネ運転になるというものです。

エアコンは最も一般的な冷暖房機器として、多くの家庭で広く使用されています。環境省では、快適性を損なわない範囲で省エネルギーを目指すために、室温を夏季28℃、冬季20℃とすることを推奨しています(設定温度ではありません)。また、エアコン設定温度を1℃緩和した場合の消費電力量は、冷房時約13%、暖房時約10%削減されると見込まれています※。

出典:環境省「2017年度の家庭のエネルギー事情を知る」

エアコンと比較して省エネを表現する場合、同じ室温で実験をするのではなく、室温の条件を緩和して比較しての結果として、省エネ表現をしていることが多いです。

床暖房(電気式パネルヒーター)と比較して、50%~70%省エネ

床暖房には、「電気式」と「ヒートポンプを用いた冷温水式」の2種類があります。

床暖房は、

  • 初期費用:「電気式」<<「ヒートポンプを用いた冷温水式」
  • 電気代 :「電気式」>>「ヒートポンプを用いた冷温水式」

ということで、一般的に表現をして販売されています。

エアコンと同様に、ヒートポンプという仕組み自体、通常の電気を使うよりは、数倍の効率を得られるものです。

例えば下記の通り、そもそもヒートポンプ式の仕組みが省エネなのです。

  • 電気式は、100の電気に対して、100の熱を発生します。
  • ヒートポンプ式は、100の電気に対して、200~300の熱を発します。

そのため、エアコンと比較して、さらに高い省エネ率である50~70%という表現は、非現実的な数値ではありません。

重油等を用いた熱源やチラーと比較して、50%前後省エネ

電気ではなく、重油や灯油を使ったボイラータイプの熱源機との比較です。特に大型施設で利用をされています。

最近は、このタイプの熱源機の利用は徐々に少なくなっており、少し古いタイプの熱源との比較になります。

前述の通り、ヒートポンプという仕組み自体が省エネであり、最近では業務用もヒートポンプ式の室外機が多いです。

輻射式冷暖房(ヒートポンプ式)は、旧タイプの熱源と比較すると50%前後省エネという表現になっています。

輻射式冷暖房の電気代の比較が難しい理由

これまでは、輻射式冷暖房と比較対象とする「熱源の種類」によって、省エネ性が異なることを説明してきました。

一般論としては、前述の通りなのですが、輻射式冷暖房の電気代や省エネ度はお客様の利用状況によってかなり変化することが、輻射式冷暖房の業界に携わっている私見です。

実は、私がまだ輻射式冷暖房事業に参画する前に、弊社と大学との共同研究で、エアコンと比較して50%省エネのデータが取得されたこともありました。

しかし、その後、社内の研究や自社の環境試験室での実験やお客様の電気代データを頂き、いろいろなパターンを検証をするなかで、電気代のブレが大きく、一喜一憂した経緯もあり、この問いに答えることの難しさを実感しています。

聞けば当たり前なのですが、

  • 千差万別である建築物の仕様(壁や窓からの熱の出入りが異なる)
  • 気象条件
  • 輻射式冷暖房の設置条件が異なることによる室外機の制御の変化

によって、一律に語れないことがわかりました。

「エアコンと同一空間と同一時間と同一条件で実験すれば答えはでるのでは?」というコメントを頂くのですが、この場合は、室外機はほぼ同じヒートポンプ式と同じ熱の量を入れることになるので、輻射式冷暖房もエアコンもあまり変わりませんし、
あくまでも実験なので、お客様が導入されて実際にかかる電気代である実利用の状況とは異なります。

さらに、エアコンの電気代や性能評価にはJIS規格で統一基準が設けられていますが、輻射式冷暖房はまだ統一基準がなく、室外機のメーカー各社や輻射式冷暖房のパネルメーカーも独自基準や条件で性能評価をしており、比較がしにくい状況もあります。

しかし、私としては、このような規格がなく比較しにくい状況下でも、よりお客様の利用実体に合わせた電気代をお伝えしたいと考えており、下記に、実例を踏まえながら整理させていただくことにしました。

輻射式冷暖房の電気代の実例

下記は、福岡のあるご自宅の実例です。

実例①(福岡市/75㎡/マンション/4人家)

輻射式冷暖房以外に電気料金が上がる要因は下記のとおりです。

  • 食洗機を毎日最低2回は乾燥まで使う。
  • 毎日1回は洗濯機乾燥を使う

また、オール電化ではなく都市ガスです。

輻射式冷暖房の電気代の例
輻射式冷暖房のあるマンション 4人家族

冷房も暖房も不要な中間期は、輻射式冷暖房をOFFにしていることがほとんどです。

室内環境は、データを取得するために故意に上げ下げを行ったりはしてなく、子供がいるご家庭のため、夏場は少し強めの涼しさ、冬場も温かい、ストレスフリー環境での実測でのデータです。

利用状況から、夏場と冬場の電気代から春秋の月の電気代の引き算を行うと
夏場と冬場の輻射式冷暖房にかかっている費用と言えるのではないかと思います。

現在は、再エネの電気供給会社を使っており、電力会社のマイページで上記のようなスクリーンショットがとれないので、新しいデータは出せないとのことですが、2022年現在も電気量はおよそ同じような推移していると伺っています。(※昨今の世界情勢で電気料金自体は上がっています。)

実例②(山形県内の輻射式冷暖房の電気代3選)

実例①では九州・福岡のでしたが、今回は暖かい九州とは気象条件の異なる寒い東北・山形の事例について見ていきます。

福岡同様、輻射式冷暖房パネルだけの電気代ではないのですが、お客様から提供頂いたデータがそろっていましたので、下記に一覧化しました。

輻射式冷暖房の電気代の例(山形県)
山形県の輻射式冷暖房の電気代

オール電化の採用にかかわらず、山形県の周辺のご家庭と比較しても光熱費が上がっていないことがわかるかと思います。

輻射式冷暖房の電気代は、設計と利用の仕方で変わる

熱源である室外機の比較や電気代の事例の観点から情報を整理しましたが、省エネであると感じる結果を得るためには、下記の3つのことが前提であり、大切であることを感じています。

  1. 間違いない輻射パネルの選定
  2. 間違いない室外機の選定
  3. タイマー運転を前提とした利用の方法 ※特に重要

これらの3つの条件がうまく揃って、輻射式冷暖房の電気代について、導入後の期待値との乖離がなくなることを感じています。

間違いない輻射パネルの選定

輻射式冷暖房の導入の際は、その建物に発生する熱や出入りする熱を計算し
ます。これを熱負荷計算といいます。それらの数値の合計を上回るように、輻射パネルを選定します。

よくUa値のみやηAC値、次世代省エネ基準の区分表からの計算を熱負荷計算と勘違いされるのですが、Ua値 やηAC値や区分表はあくまでも省エネ基準を満たすための熱の平均値なので、熱の出入りの具体的な数値計算にはなっていません。

①Ua値(外皮平均熱貫流率)
 住宅の室内から、壁や床、窓を通じてどれくらい熱が逃げてしまうのかを示した数値で、数値が低いほど省エネ性能が高い住宅です。

②ηAC値(夏場の平均日射熱取得率)
 住宅の室内に、太陽の光がどれくらい入ってくるかを示した数値で、数値が大きいほど太陽の熱が入りやすい住宅です。

この選定を誤ると、輻射パネルの能力が足らず、常にハイパワー運転のような運転を室外機がせざる終えないので、省エネ効果が得られません。

普通自動車に乗り慣れている人が、軽自動車だと、ついついアクセルを強く踏み込んで利用すると省エネではないのと似ています。

実は、間違いない輻射パネルの選定は、熱負荷計算も複雑なのですが、輻射パネルの能力仕様には2022年6月現在、JIS規格が定められておらず、各社、仮定値だったり能力が曖昧なことが多く、熱負荷計算を実施しても、その輻射パネルの能力が正確でない場合もあり、熱負荷計算の結果に対して上回るパネルの能力選定がしっかりできていないメーカーも散見されます。

参考:「輻射式冷暖房における熱負荷計算の重要性 」へ

輻射式冷暖房の選定には、さまざまな注意点がありますが、輻射パネルだけを比較するときは、しっかり試験で能力(カタログの冷暖房能力値)が実証された値であるかの確認と実証された時の実験の環境条件をそろえて比較する必要が大切です。

参考:「輻射パネルの性能を正しく評価するために」へ

間違いない室外機の選定

熱負荷計算と輻射パネルの選定がしっかりできても、室外機の選定を誤ると、省エネを期待できません。

輻射式冷暖房は、基本的にヒートポンプ式の熱源である室外機を利用します。

エアコンも同様ですが、このヒートポンプ式室外機の特徴は、外気温によって出力できる能力や省エネ性が異なる性質を持っています。

そのため、同じパネルの台数であっても、北海道と沖縄では、室外機の能力選定は異なります。

輻射式冷暖房の室外機を販売しいているメーカーもJIS規格がなく、性能評価の条件が、実は異なっています。

そのため、大手メーカーのカタログに載っている数値をそのまま利用して設計をするとトラブルになります。

実際に室外機の環境測定条件をそろえると、1.5倍くらいの差になる室外機もあります。

この能力選定を誤ると、輻射パネルの能力が足らないと時と同様に、室外機の能力が足らず、常にハイパワーの運転の稼働になり、省エネでなくなります。

タイマー運転を前提とした利用の方法(※特に重要)

輻射式冷暖房で利用される室外機は、基本的に24時間コントロールできるタイマーがついています。

メーカーによって異なりますが、

輻射式冷暖房のタイマー運転
輻射式冷暖房のタイマー運転

上図のように、24時間を30分刻み=48パターンの設定で、ONとOFFとセーブ運転(省エネ)の3つのモードが切り替え可能です。

不在時はセーブ運転やOFF運転に。

特にエアコンも同様ですが、ヒートポンプの仕組み上、冬場に熱源に負荷をかけると電気代もあがってしまう理由もありますが、冬場の睡眠時は、少し肌寒いくらいの方が入眠がよかったりすので、寝始めはセーブ運転や場合によってはOFFを数時間して、明け方に徐々にセーブ運転⇒ON運転にして、生活に合わせて、しっかりタイマー運転を活用ください。

商業利用の場合も同様に、利用しないときは、セーブ運転やOFF運転を活用してタイマー運転を活用をお願いしております。

総じて、ずっと通常のON運転だと「電気代が思ったより安くない?むしろ高い?」など残念な結果になりますので、タイマー運転を必ずご活用ください

これらは、自動車で例えるとわかりやすいかもしれません。いくら燃費の良いエンジンを積んでいる車でもアクセルの踏み込み具合でまったく燃費が異なるのと似ており、利用方法=実際の利用状況が電気代左右します。

まとめ

2022年7月現在の私見では、輻射式冷暖房の電気代は一般的なご自宅の光熱費と比較して10~20%省エネになっている、というのが現時点で言えることかなと思います。(家の仕様によります)

理由①:輻射の効果により室温の設定が1~2℃緩和できる

FUTAEDA株式会社の室温を一定に保ったまま輻射の影響を調べる実験を行い、暖房時及び冷房時において、室温よりも輻射熱によって、体温が1~2℃異なっていることを実証しました。この体温上昇分の差分によって、リモコンの室温設定が1~2℃緩和され、室外機の負荷が減り、10~20%ほど省エネになる理由の1つと考察しています。

下記は、空調制御できる試験室内で、各々同一の室内条件(24℃ 40%)・パネルからの距離1mにて、パネルOFF(通水なし)、パネルON(暖房時 50℃、冷房時 7℃の水温を同一流量で通水)をしたときの赤外線サーモグラフィの比較​です。

輻射式冷暖房の体感温度効果
輻射式冷暖房の体感温度効果

※よく輻射で体感温度の影響を調べる実験がありますが、時間と共に室温が異なっている実験が多いのに対し、弊社では室温を常に一定にしてより厳密な実験を行っています。

理由②:お客様からの電気代の平均

上述の実例では、福岡県と山形県の事例を紹介をさせていただきました。

この実例は、私が知っている中でも、良し悪しのあるデータではなく平均的なデータを紹介しております。

前述の通り厳密な比較は難しいので、お客様の実利用の電気代を比較すると、10%~20%電気代が下がっていることがわかるかと思います。

上記2つ理由から、2022年7月現在、一般的なご自宅の光熱費と比較して10~20%省エネであることが多いことが確からしいかなと考えています。

※本記事に記載させて頂いた情報は、極力正確な情報になるように努めておりますが、記載時点での知見を元に作成しています。建築や空調をはじめとする輻射式冷暖房は、多岐にわたる複合的な商品で、一意的な情報のみで捉えて頂くことはお控えください。また、今後の知見や研究結果の蓄積、建築環境や気候変動、経済情勢の変化等によっては、実情と異なったり、情報の変更をさせて頂くことがあること予めご了承ください。

※本投稿は、輻射式冷暖房に統一して表記をさせて頂いておりますが、輻射冷暖房、輻射空調、放射式冷暖房、放射冷暖房、輻射空調すべて同じ意味になります。